TSMCの熊本工場は半導体不足を解消するか?

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 今回はTSMCの熊本工場建設というニュースから、この熊本工場が建設された場合現在の半導体不足は解消するか、そして日本の半導体産業が成長するきっかけになるかという点について紹介したいと思います。

熊本工場の概要

 TSMCは熊本に半導体の新工場を建設することを明らかにしました。2022年着工であり、2024年生産開始の模様です。TSMCは情報の公開が少ない企業なので公式発表されている事項は少ないですが、公式情報として明らかにされたのは22-28nmプロセスを用いたスペシャルティテクノロジファブであるという点です。そしてソニーの熊本工場の隣に建設されるということから、現在はソニーのイメージセンサーの生産を行うのではないかという点が濃厚な線であると予想されています。

半導体不足は解消するかについて

 結論としては、焼け石に水くらいはこの工場で改善するかもしれないという予想です。その理由としては、現在はSONYは自社でセンサーを製造しているほかある程度TSMCにも製造を委託しており、この委託している製造拠点が空けばそのほかの半導体へのリソースを回すことができると予想できるからです。

 しかし、CPUやGPUなどのようなロジック半導体の供給量にはこの工場新設のインパクトは直接的にはゼロだと思います。そもそもこのファウンドリーは22nmから28nmと一般的な半導体を作るのには十分すぎるほど設備ですが(ソニーのイメージセンサーは65nmほど?)最新のロジック半導体はTSMCでは、次は5nm、そろそろ3nmも見えてきたころであり、特に最新鋭の設備が求められます。この工場はおそらく最新鋭の設備を置くというよりはレガシーのプロセスで生産し、収益を確保するという構造になってくると思うので、最新鋭の生産拠点ということに関しては語弊があると思います。

(もっともKIOXIAを除けば45nmのルネサスを超える最新鋭のプロセスであり、日本最先端のロジック半導体工場になる模様)

 また、現在深刻な状況である車載用半導体に関してはもしかしたらこの工場での製造がおこなわれる可能性があるのでこちらに関してはある程度、状況を改善するためのカンフル剤としては機能すると思います。

この工場で日本に半導体業界が復活するか

 この工場で、いきなり第二位のサムスンを超える半導体製造を能力を獲得するかといわれれば無理があります。このペースで工場を新設したとしても、サムスンはおろか、第三位のUMCや四位のグローバルファウンドリーズを超えることはできないでしょう。少なくともサムスンはこれと同規模以上の工場や拠点を数個持っており、そのうえで今後10兆円単位で投資をするといっており、このような動きから考えるとまだまだ日本がファウンドリーとしてやっていくのは絶望感しかないです。

 しかし、この工場がTSMCに粗悪品をつかまされたボッタくりかというと一概にはそうは言えないと思います。この工場でおそらく一番利益を得るのは紛れもない日本企業であるソニーです。ソニーは日本で数少ない世界で戦える半導体部品を作ることができる会社であり、その数少ない会社の中で今最も勢いのある会社です。ソニーはスマホ時代の発展とともにイメージセンサーにより経営危機から一気に復活を遂げました。しかし、最近ではサムスンが本格的にSONYへの対抗製品をだすなど、これまで天国だったイメージセンサー業界も戦場になる恐れがあります。そのような状況の中、半導体生産世界一位のTSMCとタッグを組めるのはSONYとしては渡りに船といえるでしょう。劇的に状況が良くなるとは言えませんが、現状維持よりも良い結果くらいにはなるかもしれません。

 またこの工場にはデンソーも参画することが示唆されており、産業用ロボットの汎用半導体を製造することが期待されているので、車載用半導体とともに必要な部品の供給の確保が行えるという点に関しては意味は十分あると思います。

 そして、22nm~28nmという最新鋭ではないプロセスも日本からするとありがたいかもしれません。22nm~28nmは最新鋭のEUVを使わなくとも、旧世代のArF液浸でも製造を行えます。そしてArf世代まではニコンがASMLに対抗できていました。しかし、ニコンはASMLが実現できたEUVリソグラフィーの開発に失敗し半導体露光装置業界のシェアを急速に落としていきました。それにより業績が低迷するという危機的な状況にありますが、仮にこの工場にニコンの露光装置が供給されればある程度ニコンの救済にもつながってくるのではないかと予想できます。

 そしてなにより、この工場最大の意味は国内で製造を完結できる拠点が増えるという点です。この工場ではしっかり前工程を行うので、国内で製造を完結できます。これまではグローバル化で製造コストが安い国に拠点を置けば最大限の利潤が追求できるという流れができていましたが、昨今の新型コロナ、そしてきな臭くなった米中関係により多少の利潤よりも自国内で安全に部品を調達できること、そしてジャストインタイムよりも非常時にある程度の在庫があることが重要視されるようになりました。

 日本では現在10nmレベルのnandを製造できる四日市工場のほかには、たいていはレガシーの半導体を製造できる拠点しかありません。仮に台湾や韓国、米国との関係が悪くなった場合日本では最新鋭の半導体を作ることが厳しいというのは大きなウィークポイントといえるでしょう。そのため、かりに莫大な投資をしたとしても国内で半導体をつくるということを盛り上げるのは重要だと思います。

 結論としては、熊本工場では半導体復活という大それた目標は達成できないが既存の日本半導体業界にはある程度プラスになる可能性が高い投資であるというのが私の感想です。

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